このLOVEHEARTS STORYは、院長池田優子が、その生い立ちから医師としての道を歩むまでの紆余曲折の半生を、ノンフィクションライターが綴ったものです。 2002年に発刊された本ですが、多くの女性に勇気を差し上げることができればと思い、ここに掲載させていただきます。

果菜子ちゃんとの会話

「愛しき人はくちづけ固くともに生き、ともに死なんと誓いしゆえにわが幸は映ゆわが愛すごと、愛いさるる身の」
(C・ブロンテ『ジェイン・エア』、中央公論社)

みぞれがちらつく1月の日曜日。
昼下がりの渋谷で、女医・池田優子自慢の愛娘・果菜子ちゃんに会うことができた。
女手一つで守り続けてきた果菜子ちゃんもすでに中学生。
黒目がちの瞳は母親の胸に抱かれていたころの写真と変わっていない。
卵型の輪郭と、すらっと伸びる手足は母親ゆずり。
待ち合わせのレストランに入ってきたわたしの姿を見ると自然に立ち上がり、頭を下げる。
15歳の少女とは思えないくらいの立ち居振る舞いだ。
池田がただ甘やかすばかりの親でないことは容易に想像できた。
インタビューには池田も同席したが、母親が話しているときはほとんど口をはさまない。
もの静かな子だが、暗い影はどこにも見当たらず、一見しただけではシングルマザーの家庭に育ったとはわからない。
――はじめまして。ピンクのニットがお似合いですね。
「ありがとうございます。でも、これわたしのじゃないんです」
――と言うと?
「お母さんのなんです......というよりも、わたしとお母さんは見ての通り体型が近いので、2人で着回ししてるんです。ちなみに(今日付けている)アクセサリーも、全部お母さんが買ったものなんですよ」
――趣味が合わないとか......ほら、年齢的にちょっと違うとか(笑)、そういう不都合はないんですか?
「うーん、ほとんどないですね。お母さんもこういうファッションの人ですから」
(はじめに書いたが、池田の普段の服装は街で見かける女子高生に近い)
――お母さんからいろいろ昔の思い出をうかがいましたが、特に覚えているシーンはありますか?
「えーと......」
――保育園のとき遊びに行った、新江戸川公園は覚えてますか?
「なんとなく記憶にありますけど......」(無理もない。当時彼女はまだ3、4歳だったのだから)
――果菜子ちゃんが小さかったころ、お母さんはほとんど家にいなかったと思うんですが、寂しくなかったですか?
「寂しいと思ったことはほとんどありませんでした。夜はほとんど帰ってきてくれたし、昼間はわたしも小学校・中学校があったから」
――毎日会うことはできたわけですね。
「はい」
少し話してみると、果菜子ちゃんはわたしが勝手に想像していたような、"寂しい幼少時代"を過ごしたわけではないことがすぐにわかった。
池田が医学部受験や入学後の医学部での勉強時間を最大限削り、ここまで続けてきた娘とのコミュニケーションは、果菜子ちゃんの成長というかたちで結実したようだ。
小学校時代の果菜子ちゃんについて、池田はこう振り返る。
「1クラス十数人という小さな学校でしたが、同級生みんなと仲良くしていたようです。
片親であることを卑屈に思って生きてほしくないと思っていましたが、杞憂★きゆう★に終わりました。
果菜子を甘く見ていたかもしれませんね(笑)。
今思うと、娘が小学校時代を無事に過ごせたのは、周りのみんなのおかげだと思います。
父と母はもちろんですが、1番感謝しているのは娘の同級生のお母様です。
偶然わたしたちと同じマンションに住んでいらっしゃったのですが、わたしが医学部の定期試験で身動きがとれないときなど、よくお世話していただきました」
母の汎子さんもこう話す。
「孫の小学校の校長先生は女性でした。校長先生にはよく孫をかわいがっていただいたようです。
卒業するとき、彼女はこう言いました。
『カナちゃんが立派な子だったから、今の優子先生があるんですよ』
本当にその通りだと思っております。よい娘と孫に恵まれて幸せです」
――お母さんとはよく話をしますか?
「しますよ。食事中とか、寝る前のベッドでとか」
――同じ部屋で寝てるんですね。
「それどころか、今でもベッドをくっつけてとなりで寝てます(笑)」
――どんな話をするんですか?
「学校であったこと、ファッションのこと、テレビのこと......いろいろです」
――テレビのことって?
「お母さんって芸能人の批評が大好きなんです。
年末はいっしょにNHKの『紅白歌合戦』を見たんですが、すごかったんですよ。
浜崎あゆみちゃんや安室奈美恵ちゃんが登場するとかわいいやら、かわいくないやらガヤガヤ討論したり、
小林幸子さんが出てくるとお母さんの辛口トークが始まったり......2人で延々と話してました」
果菜子ちゃんの話を聞いていて、ふと気づいたことがある。
池田がふだんコギャル風のファッションで街を歩いていることはすでに書いた。
はじめは彼女の先天的なファッションセンスだとばかり思っていたが、もしかしたら違うのではないか。
確かに、池田のフェイバリットカラーは"ディオールピンク"だし、今ハマっているブランドは"クロムハーツ"ではある。
けれども、「いつまでも若々しくいたい」から、若々しいファッションを取り入れているわけではない気がする。
彼女には確固とした目的意識があり、それを実現していくためにこそ、"守りに入らない"若い自分を必要としているように見えるのだ。
彼女の目的意識とはなにか。
それはもちろん、『いつまでも娘の気持ちをわかってあげられる母親でいること』だろう。
これは、あくまでわたし1人の憶測にすぎない。
たぶん池田に聞いても、「わたしが好きなファッションをしてるだけ」と答えるに違いない。
――お母さんが服やアクセサリーを買うところは見たことがある?
「買い物もけっこういっしょに行くんです。けど、お母さんの買い方は激しくてついていけません。
お店に入ってさらりと見て回ると、すぐ買っちゃうんです。ホントに全部見たの?ってくらい。
お母さんはわたしに『服は感性で買うのよ』と言いますが、無理かも......(笑)」
――お母さんは普段どんな人?
「言ってもいいんでしょうか。得意料理はカレーとお味噌汁。
寝るときはTシャツと短パンで、布団をかけないで寝る人です!(笑)」
――それだけ......?
「(恥ずかしそうに)カッコいいと思うときもあります」
――将来はやっぱりお母さんみたいな女医に?
「無理ですよ、頭悪いし」
久しぶりに「日本の女性」に会った気がした。
言葉づかいが丁寧で、話すときも視線をあちらこちらにやらない。
とげとげしい化粧もしていない。メディアで見かける女子高生とはだいぶかけ離れた印象。
落ち着きがあり、だれにでも好感を持たれるタイプだ。
お世辞ぬきで、「ここまでいい子だとは思わなかった」と言っておこう。