このLOVEHEARTS STORYは、院長池田優子が、その生い立ちから医師としての道を歩むまでの紆余曲折の半生を、ノンフィクションライターが綴ったものです。 2002年に発刊された本ですが、多くの女性に勇気を差し上げることができればと思い、ここに掲載させていただきます。

娘を返せ!

東京にしては時期はずれの残雪が残る、果菜子ちゃん1歳の誕生パーティーの翌日。
一区切りがついたその日に、池田夫婦は今までにない派手なケンカを繰り広げた。
「部屋で口論になりました。いつもなら、うるさがって義母のところに隠れてしまう夫ですが、
その日だけは果菜子を抱きかかえて義母の部屋に逃げ込んだのです.....
今まで蓄積されてきたストレスが、ダムが決壊するかのように一気にふき出してくる。
自分ではもう止められない。頭が狂ってしまいそうなほどの怒り。脳より先に身体が動き出した。
廊下を走り抜け、玄関に飛び出したわたしは、義母の家のドアノブを思い切り引っ張った。
『カギがかかってる』
動転したわたしは、とっさにそばに置いてあった靴を拾い上げ、玄関に向けて力いっぱい投げつけた。
6階の通路にものすごい音が響き渡ったが、中からはなんの反応もない。
もういっぽうの靴も投げつける。
怒りはマグマのようにこみ上げてくる。
『果菜子を返せ!』
叫んだ。人生でこれほどの怒りを感じたのは初めてだった。
玄関のドアに走り寄り、ドアをこぶしで叩きつけた。何度も叩きつけた。
『返せッ! 返せッ!』
情けなくて涙があふれ出てきた。
中からはあいかわらずなんの気配もない。もしかしたら自分は夢を見ているんじゃないか。
自分は気が狂ってしまったのではないか。
涙が止まらない。
家の壁を渾身の力で蹴り飛ばした。ひびが入った。脆いものだ。
『いやーッ』
自分のなかにあるわだかまりをすべて吐き出そうと叫んだ。
目の前にある、身の丈ほどの大きな植木を蹴り飛ばすと、あっけなく床に転がった。
土が汚らしく散らばる。
「返して、あたしの娘を返してよォ......」
全身から力が抜けていく気がした。その場に座り込むと、また涙がとめどなく流れだしてきた。
これでぜーんぶ、終わったんだ。そう思った。
部屋に戻り、やけくそになって部屋中の食器を割った。
結局その日、夫と果菜子は義母のところから帰ってきませんでした。
本当になにもかもが終わったような気がしました。」