このLOVEHEARTS STORYは、院長池田優子が、その生い立ちから医師としての道を歩むまでの紆余曲折の半生を、ノンフィクションライターが綴ったものです。 2002年に発刊された本ですが、多くの女性に勇気を差し上げることができればと思い、ここに掲載させていただきます。

結婚ってなんだろう

嫁と姑が対立することはそれほど珍しいことではない。
イスラム教圏のように、親に対する絶対の服従が掟となっている世界は別として、
アメリカやヨーロッパの国々のどこへ行っても聞く話だ。
ただ、結婚生活を守るために不条理を我慢するのが美徳になっているのは日本だけ。
『結婚とは我慢すること』としばしばいわれるように、日本では個人の尊厳よりも、
結婚という家族ぐるみの約束や、一族の体面を守ることのほうが重要視される。
アメリカでは既婚者の2人に1人が離婚を経験している。
アメリカ文化万歳! なんて気はさらさらないが、わたしたちもアメリカ人同様、
たった1度きりの人生を幸せに生きる権利を持っているということ、
何度でも選択をしなおす権利を持っているということだけはまちがいない。
「義母に刃向かうこともできない夫でしたが、わたしのことを愛してくれたし、
わたしも愛していました。
単身赴任を強いられている家庭に比べれば、時間的にはずっとずっと恵まれた環境で暮らしているのに、
仕事でなかなか帰ってこられない夫に不満ばかりぶちまけて、
みずから楽しく生きようとしない自分がイヤでした。
結婚して1年ほどたったころ、ケンカがエスカレートして
わたしが『家を出て行く』とヒステリーを起こしたために、
義父夫婦とわたしの両親が集まって親族会議を開きました。
どちらの両親も、わたしが家に留まるよう必死に説得してくれたんです。おかげで思い留まることができました。
そのあとでしたね、『子供ができればうまくいくかもしれない』と思ったのは。
子供ができれば、義母も子供に目を向けるようになるだろうし、わたしも余計なことに気をまわす時間が減るだろうと。思いついてからは早かったです。
それまで子供のことなどほとんど考えてもいなかったのに、いざ思い立つとすんなりと妊娠したんです。
妊娠していることがわかると、両親はもちろんですが、
夫も義父兄弟も結婚式のときと同じくらい喜んでくれたのが印象的でした。
予想していたとおり、妊娠は夫婦関係に一時的な小康状態をもたらしました。
慢性的になっていたイライラから久しぶりに解放され、
夫の休日には、着実に大きくなっていくわたしのお腹をさする夫を見つめながら、
のんびりと時間を過ごす余裕もできました。
でも、夫が仕事に出かけ1人残されると、いつかこの小康状態が終わる日がくるのではないかと不安になりました。
それでも、1年もしないうちに子供が生まれてきて、なにか大きな変化があるはずだ......
そんな期待だけを胸に、変わりばえのしない日々を悶々と過ごしたのです。
だれか頼る相手が欲しくて、日大時代の友人と電話で話したりもしました。
そのときそのときの気休めにはなりましたが、家庭内のドロドロした事情を友人にぶちまけるのもはばかられ、
本当に相談したいことはいつも言えずじまい。
結婚ってなんだろう......そんな悩みがふたたび頭をもたげてきました」
親が子供に救済を求めたとき、すでに結婚生活の崩壊は始まっていたのかもしれない。
作家の故・三浦綾子は書いている。
「幸福な結婚というのは、結婚してからでは遅いということである。
お互いが独身の時に、先ず自分自身の生活を、責任を持って築いていく。
いってみれば、結婚生活の土台は、お互いの結婚前の生き方にかかっているといえる」
(『孤独のとなり』、角川書店)